消えるGDP22兆円 ~大廃業時代:事業承継待ったなし~
高齢化の波が押し寄せてきて、あらゆる分野の中小企業を飲み込んできています。
日本の企業数の「99%」を占める中小企業の多くが廃業の危機に立たされています。
日本経済新聞の2月27日から3月2日まで4日間にわたり掲載された特集記事をベースに紹介します。
中小企業の事業承継の現状
経営産業省の調査では、中小企業の経営者で最も多い年齢層は「65~69歳」、平均引退年齢は「70歳」とのことで、経営者の高齢化に伴い廃業する企業は急増しています。
東京商工リサーチの調査では2017年の休廃業・解散企業数は「約28,000件」で、この10年間で3割増えています。
中小企業の70歳以上の経営者245万人のうち、約半数の後継者が未定で、このままでは「約22兆円の国内総生産(GDP)」が失われる恐れがあります。
黒字経営でも廃業の選択
中小の町工場がひしめく東京都大田区でも、高度成長期に活況を呈した町工場が続々と姿を消しています。
かつて1万近くあった工場数も現在は3千程度になっています。
代替製品や代替技術の出現などの技術の変革による廃業もありますが、黒字経営でも後継者がいなくて廃業になるケースも多く、今後更に増えていくことは確実です。
製造業だけではなく、物流も危ない
サプライチェーンの要である物流業者にも廃業の波が押し寄せています。
大手の物流メーカも運転手不足が深刻になっていますが、中小企業で制作した部品を大手の工場に供給(運搬)しているのは、個人経営の配送会社が多く、この廃業により物流の再構築を迫られている企業も多くあります。
政府の対応
今は中小企業の「事業承継」は、大きな政策課題になっています。
政府も全国に「事業引継ぎ支援センター」(主に商工会議所の中に設置)を設置し、弁護士・税理士・中小企業診断士などの専門家と連携して、相談から実際の承継の支援を行っています。
今後10年を事業承継の集中実施期間と定めて、年間5万件の事業承継診断の実施や、年間2千件のM&Aなどの事業承継の成約を目標にしています。
※先に示したように年間の休廃業・解散件数が「年間28,000件」ですので、事業承継の成約目標は1割にも達していません。
このため、民間の専門家やコンサルタントの力が必要と考えています。
金融機関の対応
先日、福岡県の地方銀行が主催する「事業承継セミナー」を聞く機会がありました。
約70人の聴講者で、60歳~70歳代の方が多く参加されていました。
地方銀行、信用金庫、信用組合は地元の企業をこれまで支えてきましたので、その企業の実状はよくわかっているので、事業承継の橋渡し役としては最適かもしれません。
ただし、銀行に事業承継を相談するのは敷居が高いようで、まずは身近な税理士や商工会議所のような公的機関に相談される方が多いようです。
これからは、特に税理士が専門家への橋渡しができることが必要と思っています。
海外資本の参入
証券会社が定期的に企画する外国人投資家向けのセミナーのテーマを募集したところ「中小企業の事業承継について知りたい」との要望が寄せられたとのこと。
中小企業の事業承継で海外資本が引き受け手になる案件が増えているとのことで、「M&A助言のレフコ」によると、2017年に外資企業が日本の未上場企業を買収した案件は「前年に比べ23%増の90件」とのことです。
外資企業に事業承継を行うことにより、日本の中小企業が海外展開を行うきっかけになる可能性はあります。
輸出を手がける日本の中小製造業の比率は2014年に「3.7%」、産業構造が似ているドイツの「約20%」と比べて非常に低い状況です。
ただし、外資企業に事業承継することは、技術流出をまねき、国力が低下するとの懸念もありますが、もう議論している時間はないようにも思えます。
国内企業の集約が必要
事業承継をスムーズに行うには、各企業が個別に考えるのは限界があると思っています。
これまで同じ分野(市場)で競合として切磋琢磨していた企業が、まずは緩やかな連携をして、各企業の強みを結び付けて更なる強みを形成していく動きが必要かと思います。
その連携の中で、事業承継が必要な企業を吸収して、事業規模を拡大していく流れが望ましい姿と考えています。
事業承継には「事業再生」と「後継者教育」
事業承継を行う場合、特に他の企業に売却する場合には、準備段階として「高く売れる企業(商品)」にしておく必要があります。
「経営者の高齢」が理由で売却するには、売却後の生活資金を確保する必要があります。
「高く売れる」ためには、最低でも2~3年かけて「会社の価値」を高めて(事業再生)、購入先と交渉する必要があります。
また、特に「親族間承継」の場合は、「後継者教育」が大きなテーマになります。
中小企業基盤整備機構の調査では、後継者教育には「5年以上必要」との結果が出ています。
「事業再生」と「後継者教育」を考慮すると、早い段階で「事業承継」を考えて取り組む必要があります。
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