(中小企業の人事戦略の参考として)大企業の政策が変わる?
今回の記事は大企業向けであり、中小企業には必ずしも当てはまりませんが、社会の流れとして捉えて下さい。中小企業での人材育成に関しては次号以降に示します。
成果主義が進まなかった原因
「新型コロナウィルスの感染拡大」問題をきっかけに「就労のあり方(雇用形態)・仕事の評価(賃金制度)」の見直しに注目が集まっています。
日本では長らく(現在でも)年功型賃金制度が主流になっています。
厚生労働省の2017年の調査では、管理職以外の場合、賃金について、
・年功を考慮する企業:67%
・業績・成果を考慮する企業:43%
という結果がでています。
「成果主義」の評価制度は、1990年代~2000年代初頭で、多くの企業が「目標管理制度」と併せて採用を行いました。
「失敗を恐れて手堅い仕事を選んだり、自分の評価につながらない同僚の仕事に手を貸さなかったりする」など、負の側面が顕在化して定着しませんでした。
また、団塊世代が働き盛りを迎えると年功型賃金のままでは経営を圧迫するという論点がありましたが、非正規社員を増やして人件費を圧縮し、2000年代後半には「団塊世代も定年退職」し、その問題も解消しました。和を重んじる職場風土を壊してまで改革を断行する理由が薄れたことも「成果主義」が進まなかったことの要因です。
「ジョブ型」の雇用制度
今回の「新型コロナウィルス感染拡大」でテレワーク(在宅勤務)などで、「年功や労働時間」を基軸とした働き方の矛盾が明らかになり、企業は改めて「成果主義」への関心を高めています。
この中で最近「ジョブ型」の雇用制度の導入を検討する企業が増えています。
この制度は、「職務ごとに最適な人材を充て、仕事の遂行能力や実績に応じて処遇を行う」ものです。
最初に、職務ごとに、使命・役割や具体的な仕事内容、必要な能力、経験などを明確にした「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を作ります。
これに照らし、最も適任と判断した人材を起用します。人ありきで仕事(ポジション)を作るのではなく、あくまで仕事内容で人を配置します。
賃金は、仕事の難易度や専門性に応じて決まり、日本的な順送り人事や年功は否定されます。
その職務をこなすには能力不足であったり、成果が上がらなかった場合には、難易度の低い職務に配置転換になり、賃金も下がります。逆に能力が高く成果を出している人は、より高いスキル(技能)が求められ、報酬も高いポストに移る機会が増えます。
日本版ジョブ型雇用
解雇が厳しく制限されている日本の現状では、「ジョブ型雇用」は、社内の人材流動性を高める形での運用が中心になります。外部との間で人を大胆に入れ替える欧米とは異なりますが、それでも従来の「年功型人事制度」と比べ実力主義が進むことになります。
従来の日本の会社では、社員の職務をはっきりさせず、専門性を磨きにくいという問題がありました。ジョブ型雇用では、個人の自律的なキャリア形成を促すという側面もあります。
ジョブ型雇用は、人材の流動化を促す仕組みである点がこれまでの日本の人事制度と構造的に異なります。
経団連は2020年1月に、年功序列・終身雇用を前提に社員を育てる従来の「メンバーシップ型」に、「ジョブ型」を取り込んだ「複線型」が望ましいとの指針を公表しました。
この方向が良いのかは、様々な意見があると思います。
生産性の改善・向上には、社員の能力を高めることが必要で、年次主義を脱し、ポストにふさわしい人材を配置し、成果に見合った報酬を支払うことが必須です。
これには、「評価の透明化」や「管理者教育」などが必要です。
この新型コロナウィルス感染拡大は「働き方、人事評価制度」に大きなインパクトを与えていて、今後、人材の流動化、特に優秀な人材の転職が増えると考えています。
今回紹介した内容は、大企業の人事政策の話であり、人材が限られ、流動することもできない中小企業にはあてはまらないと思います。
次号から、中小企業での人事戦略、「いかに従業員個々の能力を高めるか」、「成果を上げる集団を作るか」について紹介します。
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