経営計画の策定(3)銀行を知ろう~各銀行の特色と対応~
企業の運営には「お金(資金)」が必要です。
金融機関からの借入がなく全て自分のお金(自己資金)で会社を運営して発展できればそれが理想ですが、次の場合には何らかの資金調達が必要になる場合があります。
・今、設備を入れて生産量を増やせば、他社よりも市場での占有率(シェアー)が上がる
・新製品の開発の目途が立ったので、競合先に先んじて市場に投入したい
・まとめて購入したら安く手に入る *この場合は不良在庫にならないように慎重に!
・先に収入が見込めるが、つなぎの「運転資金」が足りない *消極的な借り入れ
※今回は創業資金については触れません、創業融資には「日本政策金融公庫の創業融資」「信用保証付きの金融機関融資」があります。
ここで気を付けたいのは、あくまでも「借入」は、きちんとした「経営計画」に基づいて必要最小限に留めることです。
ずさんな計画でもし借入ができたとしても、後の返済で苦労し、最悪は倒産に至ることもあります。
今回は、各銀行の特色と対応について紹介します。
各銀行を理解して、銀行の言いなりにならず、後のことを考えて、少しでも有利な条件で借入ができるように、参考にして下さい。
中小企業が金融機関に対してとるべき対応
各銀行の紹介の前に、結論的に「中小企業が金融機関に対してとるべき対応」を示します。
その理由は、後に示します各銀行のメリットとデメリットを参考にして下さい。
なお、会社規模や各会社の財務状況によって、個別対応は異なりますが、全体的な考えとして参考にして下さい。
① 金融機関との取引形態は、「(都市銀行):地方銀行:信用金庫もしくは信用組合」で、合計3~5行が望ましい
例えば、設備投資のため多額の借入は都市銀行で長期(都銀の方が金利も低い)で、運転のための短期資金は信用金庫(付き合いが長いと比較的融通が利く)で借入を行うことが考えられます。
なお、会社規模が小さい、会社の信用がまだできていない場合は、都市銀行と付き合うのは難しいので、地方銀行と信用金庫もしくは信用組合の組み合わせになります。
1行に集中、あるいは特定の銀行の比率が高いと、銀行の力が強く不利な条件を提示される場合があります。
分散させておくと各銀行間の牽制が行われ、それにより、いざとなった場合の選択肢が広がる可能性があります。
多少の金利差は重要ではなく、延滞時のリスクを低減させることが重要です。
② 可能な限り、保証協会付融資は避けるべく交渉を行う
銀行からの視点では、保証協会付は返済に行き詰まった場合を想定するとリスクを回避できるので勧めてきます。
信用保証付では、銀行への支払い利息に加え、保証料が必要になってきます。
また、もし返済に行き詰まった場合、保証協会に返済することになりますが、借金の縮小(債務圧縮)の施策が限られてしまいます。
③ 手形借入は可能な限りしない
手形借入では返済に困った際に、期間の変更ができないので、例え一年でも証書貸付になるように交渉するべきです。
④ 借入先には定期預金はしない
万が一、返済が滞った場合、定期預金が差し押さえられる可能性があります。
お客様のご都合や従来の取引等の関係で使用しなければならないケースもありますが、借入先の銀行では入金口座として使用しないことも選択肢としてあります。
以上、結論的に中小企業が金融機関に対してとるべき対応の概要を示しましたが、これから各銀行について紹介します。
都市銀行(都銀、メガバンク)
<メリット>
① 融資金額が大きい
1,000万円を融資するのも10億円も融資するのも手間は変わらないので、実績を上げるためにも大口融資に目がいきます。
最初は、1,000から2,000万円の融資になりますが、この実績があると次は1億円以上の融資の可能性がでてきます。
② 多くの金融商品(融資商品)を持っている
借入を申込む前にどのような商品があるか確認が必要です。
③ 金利が低い
現在は、1%以下になっています。
逆に高い金利を言われたら、会社の信用が低いので、融資後に貸し渋りや貸し剥がしに合う可能性があります。
この場合は、地方銀行や信用金庫に融資を依頼した方が良いです。
④ プロパー融資の可能性が高い
*プロパー融資:信用保証協会の保証が付かない融資
都銀は資金力があるので、銀行から言われても保証協会付融資は断るべきです。
先に述べたように保証協会付融資は、保証料が取られ、また返済が滞った際の債権処理の自由度が少なくなります。
⑤ ビジネスローンでの対応が早い
5,000万円以下の融資ならば、融資までの時間が短く、使い勝手は良いです。
ただし、金利が高く、返済期間が短いため、可能であれば通常融資にすべきです。
<デメリット>
① 借入金返済条件の変更が困難
信用金庫等と比べて、行内規定で全て定められているので変更が困難です。
ただし、延滞は「3ケ月」を超えなければ「不履行」にはなりません。1~2ケ月返済が滞ると「もう今後は借りられない」「家も取られると」と心配になりますが、「3ケ月」は大丈夫ですので、この間に策を打つことができます。
② ビジネスローン以外の審査が厳格
都銀と取引を行うためには、それなりの規模と信用が必要です。
③ 小口ローンはなかなかやらない
融資申込みが1,000万円以下は受け付けません。一般的には数千万円単位です。
④ 担当者が頻繁に変わる
2年以上同じ支店で貸付担当でいることは稀です。
担当者から「今回こうしてくれれば次回の融資は考えます」「積立や定期預金をしてくれれば次回の融資は考えます」等と言われて依頼に応じても、その担当者が代わっていて必要な時に実施されない場合があります。
「先の事はその時に、今は今」という考え方を持つ必要があります。
⑤ 財務状況の良い会社しか融資しない
都銀は金融庁の指導により、融資条件として、最低限次の状態でなければならないということがあります。
・税金の完納証明がとれること
・債務超過でないこと
・借入残高の返済が10年以内に可能であること
⑥ 不良債権は早い時期でサービサーか競売へ移行
*サービサー:債権を譲渡される機関(債権を低い価格で購入する機関)
債務(借金)の返済ができなくなった(債務不履行)時、債権がサービサーに譲渡される場合があります。
都銀の場合は、これが比較的早い時期に行われます。
サービサーへ債権譲渡する時には必ず債権が圧縮(減額)されて行われます。
この圧縮された債権を保証人等が買い取ることになる場合は、その費用を用意できれば債務の低減効果が期待できます。
そのためには、予め計画的に実施する戦略が必要です。
なお、この実行には素人仕事は危険なので、多額の債務を抱えている場合はぜひお問い合わせ願います。
地方銀行(地銀)
<メリット>
① 収益性の高い企業に融資をしたがる、特に第二地銀
都銀と比べて個々の情報量が少ないために、特定の会社、特に利益性の高い会社に集中して貸したがる傾向があります。
② 比較的融資額が大きい
ある程度の地域性があるので、1社に対する融資額は大きくなります。
融資関係が良好に継続すると、会社を育てるという考えを持つ地銀も多いので、メインバンクとして位置付けることは十分に考えられます。
しかし、融資の見返りとして担保を要求されることも多いです。
③ 第一地銀はその地域で積極的に融資活動を行う
地銀は営業マンを使って地域内での営業活動に力を入れています。
最近の金融庁の方針である「地域企業の活性化のための地銀の役割」の面で、今後更にこの傾向は続くと思われます。
都銀との融資先の取り合いの点で、中小企業としては、都銀の貸付金利を提示しながら地銀と金利交渉をすべきです。
④ 第二地銀は本拠地に本店がある会社に対しては支店範囲地域でも積極的
第二地銀には旧相互銀行が多く、資金量は第一地銀よりも少なく、また、融資依頼会社に関する情報が極端に少ないために融資は慎重姿勢ですが、本拠地に本社がある会社に対しては情報が豊かなので融資額が多くなる傾向があります。
⑤ 都銀が融資をしない様な会社にも積極的
第一地銀のライバルは都銀なので、都銀の融資先は優良会社が多いという認識のもとに争奪戦を仕掛けています。
多少のリスクを負っても融資する可能性があります。
<デメリット>
① 第一地銀は回収姿勢が強い
金融庁の指導により不良債権をいつまでも放置することは許されないので、自己資本比率を維持するために、一定のルールで従い個々の融資の引当金を積む必要がある。
そのために一定の状況に陥った場合には、ルールに従って債権の回収行動に出ます。
回収見込みがないと判断した場合には、都銀ほどではありませんが、速やかに代位弁済、担保の競売、サービサーへの債権譲渡が行われます。
*代位弁済:保証協会の保証付きの場合、保証協会に返済を要求、債権は保証協会に移る
② 第二地銀は本拠地のその会社の本店の保証を求める
第二地銀は本拠地以外で融資を行う場合には、本拠地に親会社がある場合は貸倒れリスクを避けるために親会社の保証を求める場合が多いです。
③ 財務状況のあまり良くない会社に対しては金利が高い
金融機関で言われた通りに従うのではなく、低金利になるように前向きに交渉する必要がある。
④ 特定地域内に地盤が強いため、倒産の場合その地域での再起が困難
地方都市において倒産情報は比較的に早く流れるために再起が困難になります。
しかし、再起の方法はいくらでもありますので解決策を見つけ出すために策を考えるべきです。
信用金庫(信金)
<メリット>
① 保証協会付融資が得意
信金は、その地域に特化した金融業務を行っています(地域の中小企業のための銀行というイメージ)。
そのため、大きな設備資金よりも日々の運転資金の調達をする場合の方が多いと思います。
都銀や地銀と比べると資金量は少ないため、一般的には融資残高は1億円を超えない場合が多いですが、会社の信用や担保によってはその額を超えることもあります。
金融機関は個々の融資に対して引当金を積まなければならないので、不良債権が多いと引当金の額が増えて経営に支障をきたすことになります。
そのため、資金量が少ない信金は保証協会への代位弁済を要求できる「保証協会付融資」を要求してきます。
② 比較的審査が速い
各支店の支店長へ権限がある程度与えられているために融資審査が比較的速いです。
通常一週間あれば融資が可能か不可能かは出るはずです。
たとえ「NO」と言われても「ではどのようにしたら融資ができますか?」と根気強く諦めずに交渉を続ければ融資が可能になる場合が多いのも信金の特徴です。
③ 追加融資には柔軟に対応
信金は、地域の会社とできるだけ長く融資関係を続けたいと考えていますので、都銀や地銀とは対応も異なり、会社の苦しい時は可能な範囲で話を聞いてくれるはずです。
融資に関しては、基本的には「債務超過なし・税金完納」が前提ですが、債務超過に関しては「事業計画書で超過解消の根拠と計画」、税金完納に関しては「税務署が認めた納税金支払計画書」で対応してもらえる場合も多々ありますので、諦めずに根気強く交渉することが重要です。
④ 同一法人と長期的取引を希望し、多少財務状況が悪くても長期的取引があれば融資は可能
信金と取引関係のある会社の中には、その関係が数十年にわたるという会社も多くあります。
関係を切らずに一定の借入及び返済の関係を保つことが必要です。
最後に助けてくれるのは信金だと思います。
⑤ 借入金返済条件の変更には柔軟に応じる
都銀、地銀ですと事務的なルールに沿った話し合いが行われますが、信金の場合はその会社の情報が十分にあり、更に保証協会付融資が多いのである程度話を理解してくれます。
こちらとしては無茶なことを言わないにこしたことはないのですが、「無い袖は振れぬ」で最後は押し通すことです。
<デメリット>
① 1回の融資が5,000万円以上には担保要求など慎重
信金は資金量に限りがあるので常に不良債権化した時の被害を想定します。
被害が大きければ経営に支障をきたすので、一定金額以上の融資には保証協会付融資か担保をとります。
債務不履行の場合は担保を競売にかけることになります(他の貸出先が警戒するため地方ではやらない場合が多い)。
大きな金額の借入は、信金ではなく、担保なしで都銀や地銀と交渉をするべきです。
② 初回の取引は1,000万円以下が多い
初回は信金も会社もお互いに相手の状況が分かりませんので、とりあえずこの金額から始めることが多いです。
初回の時に既に都銀との取引実績があれば会社の信用が高くなり、初回から多額の融資の可能性があります。
③ プロパー融資には慎重
現在の不況下において、債務不履行の会社が続出し、政府もその対応に苦慮しています。
これから更なる保証協会への保証予算を組まなければならないというのが現状です。
信金が全ての融資をプロパー融資で行うと、今残っている信金は一つもないでしょう。
現在信金のプロパー融資は20%に満たないと思います(今後は増える可能性はある)。
政府が手を引いたら大部分の中小企業は生き残れないのが現状です。
信用組合(信組)
<メリット>
① 取引関係が長期間だと、各種条件変更に多少無理がきく
信組から融資を受けるには出資金を出してその組合員にならなければならないので、組合員なので口を出す権利があります。
都銀、地銀、信金を含めて一番話を聞いてもらえる金融機関と言えます。
特に借入金額が少ない会社の場合は、取引関係の中の一つに入れても良いと思います。
② 組織が小さいため個人的つながりが多い
信組の支店数は1支店から数十支店といったところです。
最も多い形態としては5~10支店程度です。
したがって転勤も比較的少なく、転勤があっても近くという場合が多いです。
そうなれば個人的なつながりも多くなります。
大きな金額でなければ多少の無理も通ります。
<デメリット>
① 金利が高い
信用組合は組織が小さいので、貸出資金の調達方法も限られています。
従ってどうしても調達コストが大きくなって、貸出金利が高くなります。
そのため借入額を低くし、借入残が多くなったら他の金融機関から借入をして、信組の借入返済をする計画を立てるべきです。
② 信用保証協会融資の比率が高くプロパー融資が少ない
信金の場合で説明しましたが、信組はその比率は更に高いです。
その他に公的資金支援の制度を活用する仕組みが整っていますので、その窓口として信組を活用するというのも一つの考え方です。
いろいろと細かく信組側は説明や支援をしてくれるはずです。
③ 出資金が必要
信組は融資を受ける人が出資をして組合員になります。
信組の事業目的は営利を上げることではなく、組合員に貢献することです。
④ 借入総額は1億円以下が多い
信組の一つの会社に対する融資残額は数千万円くらいが多いと思います。
信組からは、金利が高いので多くを借りるのではなく、細かく借りてすぐ返す方法が良いです。
間違っても設備資金等の長期及び多額の借入は避けるべきです。
以上各金融機関の特徴を紹介しました。
借入には、「借入額」「借入期間(返済期間)」「金利」「信用保証付き」「担保」など様々な要素があります。
また、万が一経営がうまくいかなくなった場合のリスクも考えておく必要があります。
最悪のことも考えて、自分の会社、家族のことも考えて、しっかりとした「経営計画」に基づいた借入が必要です。
「経営革新計画」「経営力向上計画」の認定を受けることにより、金利が低くなったり、融資額が増えるなどのメリットを得られる可能性がありますので、ぜひ、これらの計画の認定にも挑戦してみて下さい。
当事務所では、「中小企業のための全ての問題解決をワンストップサービスで提供します」をキャッチフレーズにして、中小企業の経営改善に取り組んでいます。
当事務所の主要業務の「経営計画策定の支援」をベースに、幅広い専門家との連携により取り組んでいきます。
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