事業再生の種類とその特徴~法的再生~
前回、事業再生では、「目的とゴール」を明確にして進めることを記載しました。
今号からは、事業再生の種類とそれぞれのメリット、デメリットを示します。今回は、「法的再生」を中心に紹介します。
事業再生の種類
事業再生を大きく分けると「法的再生と私的再生」があり、その中で幾つかの種類(方法)があります。
法的再生
法的再生は、裁判所の関与下で行われる法的整理手続きを利用して再生する手法で、「民事再生」と「会社更生」があります。
法的再生は、裁判所が手続きに関与するので、手続きの透明性や公平性が担保され、債権者に対して法的拘束力を及ぼすことができます。
<法的再生のメリット>
1.債権者による権利行使を一時的に禁止することで、債権者の強制執行等によって事業継続に必要な資産が差し押さえられ事業の継続が困難になることを防止できる。
2.法的に多数の債権者等が同意をして裁判所が認可すれば、債権者全員の同意を得ることができなくても、再建計画を成立させ事業の再生を図ることができる。
3.事後的に否認や詐害行為を主張されるリスクや届出されなかった債権は失効することによって簿外債務などの負担リスクがないので、スポンサー企業から支援を得やすくなる。
<法的再生のデメリット>
1.法的再生を行っていることが公表されることで、イメージ的にも経済的にも損失が生じ、経営基盤が弱くなる。
2.裁判所への予納金や弁護士費用などを負担しなければならない。民事再生の予納金は、「負債の総額」によって異なり、5億円~10億円未満の場合は、500万円になります。
法的再生は、倒産というマイナスイメージがつくと事業運営に差し支えるような企業や、法的再生先との取引をしないという取決めがある取引先が多い企業などでは、利用しにくい制度になっています。
ただし、単独の再建では法的再生を用いると事業基盤が損なわれるおそれがあるものの、スポンサー企業があることで新たな信用供与を受けることにより、取引関係の維持継続を図ることができる場合もあり、状況によっては活用を検討する価値があります。
「民事再生」
民事再生は、経営破綻の恐れのある企業の再建手続きを定めた法律である「民事再生法」にしたがって、裁判所や監督委員の監督の下、債務者自身が主体的に手続きに関与し、企業の再生を図っていくものです。
<手続き>
裁判所へ再生開始申立がなされると、通常、債務(借金)の弁済禁止などを内容とする保全処分命令の発令とともに監督委員が選任されます。
1)監督委員が再生手続開始ができるかの調査・審査を行い意見書を裁判所に提出
2)裁判所が意見書に基づいて再生手続きの開始を決定
3)裁判所が、債権(借金)調査や財産調査を行い現状を把握する
4)債務者が今後の事業・借金の返済計画(再生計画案)を策定して裁判所に提出する
5)監督委員がこの再生計画案についての意見書を提出し、債権者に提示される
6)債権者の決議で承認され、裁判所が認可すれば、再生計画が確定
*債権者の決議要件:議決権を有する再生債権者について、議決権行使者の過半数の同意、かつ議決権総額の2分の1以上の多数で承認
<スケジュール>
・申立~開始決定:1~2週間
・再生計画の提出期限:申立後3ヶ月(場合によっては延長可能)
・再生計画の承認:再生計画提出後、2~3ヶ月
申立から、5~6ヶ月後から本格的な再建施策が行われることになります。
<民事再生の特徴>
1)経営者の地位に変更がない
・手続きが開始されても原則として経営陣は引き続き経営を続けることが可能。
2)監督委員の承認が必要
・監督委員は、再生債務者の業務を監督し、重要事項の決定を行う場合の同意権を有している。
3)担保権の行使ができる
・担保権行使そのものを制限する規定はなく、担保権者は担保権の行使は可能。ただし、事業継続に必要な資産に対しては一定期間の権利行使の中止の場合はあり。
4)従業員の雇用は維持できる
・ただし、再建過程でのリストラの一環として解雇となる可能性はあり。
5)債権調査・確定制度がある
・認められなかった債権は失効するため、スポンサー企業はリスクを回避することができる。
6)破産への移行手続きがある
・再生計画案が認可されない場合、債務者が再生計画の履行を怠った場合などでは、裁判所が裁量で破産に移行できる。
会社更生
会社更生は、窮地にある株式会社について利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更正を図る手続きである「会社更生法」にしたがって、裁判所の監督のもと、裁判所が選任した管財人(更正管財人)により企業の再建を図っていくものです。
<民事再生との違い>
民事再生は、再生債務者の再建を迅速に図ることを目的にしていて、経営者の交代を含む会社組織の変更は含めていません。
一方、会社更生は、広く関係者の権利調整を行い抜本的な再建を図ることを目的としており、更生手続きの中で経営者や株主の交代をもたらし、担保権者の担保権行使にも制限があります。
更正手続きは、手続きが複雑であり、民事再生よりも手続きに時間を要します。そのため、中小企業では適用は難しく、大企業でもあまり利用されていません。*中小企業への適用は難しいため、ここでは手続きや特徴などの具体的なことは記載しません。
民事再生と会社更生の比較を示します。
今回は、裁判所が介入する「法的再生」について紹介しました。次回は、多く用いられている、裁判所が介入しない「私的再生」について紹介します。
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