経営者(3)コンプライアンス「今でも迷う15年前の判断」
(本記事は2015年9月に投稿したものを、2020年7月に一部変更しています)
今号では、コンプライアンスに関して、15年前に判断したことで、今でも迷っていることを紹介します。
コンプライアンスとは、狭義では「法令遵守」で、会社が法律や社内ルールに従って活動することですが、広義には「社会的規範」や「企業倫理(モラル)」を守ることも含まれます。
会社の中の一部の法令違反により、それを原因とした法律の厳罰化や規制の強化が行われ、結果的に、善良な会社の事業活動にまで影響を与えています。
食品の産地偽装・成分の偽装、耐震強度の偽装、会社資金の私的流用、粉飾決算、残業代の不払い、秘密情報の流出、欠陥商品のリコール隠しなど、直近では東芝の粉飾決算や、学校法人の学園長の私的流用など、連日のように騒がれています。
コンプライアンス違反が発生すると、会社は信用・信頼を失墜し、信頼回復のためのコストは計りしれないものがあり、会社の体力によっては廃業に追い込まれることもあります。
信頼を築くことはかなりの労力を要しますが、信頼を失うのは一瞬です。
一人の担当者が引き起こした、あるいは判断ミスをしたことが、会社全体に影響を与え、最終的には社長(経営者)が責任を負うことになります。
個人的には、高い倫理観を持っていても、「何らかの原因によって、冷静さを失い、判断基準が誤ってしまう危険」は、どの会社にもあると思います。
対処的には、「問題が発生しても最小限に抑えられる体制作り」が必要ですが、最終的には、「問題が発生しない」組織・仕組を作っていく必要があります。
重大な不良の発生
15年位前のできごとですが、今でも、その時の判断が適切だったのか迷うことがあります。
私が勤務していた会社は「大量製品の製造会社」でした。
ある一定間隔で製品がどんどん作り出され、昼夜連続で稼働している工場です。
原材料の投入から製品として完成するまで数日を要し、最終の検査で不良が発見されると、それが比較的最初の段階に原因があると、莫大の不良が発生することになります。
それを防ぐために、途中で検査を入れて、多量に不良が発生することを防ぎ仕組みを設けますが、予期せぬことでその関所を通り抜けることがあります。
経験した不良は、社内の検査を全て通り抜けて、お客様の組立工程で問題が発生しました。
お客様も多少原因調査に時間を要し、納入したものに原因があることがわかった時点では、お客様での在庫や社内在庫、製造途中のものと莫大な数が対象になりました。
これが全部使用できないとなると、約3,000万円の損失になります。
製造していたものは、加工製品のため、組立製品のように一部の部品を交換して直すことができるものではないので、全て廃棄処分にしなければなりません。
当時、品質保証部長でしたので、お客様に提供する製品に対して責任を持つ立場です。
「お客様に不良を出してしまうのは、社内の品質保証体制ができてないため」ということになります。
不良の発生原因が製造部門の管理不足であっても、それを流出させた責任は重大です。
不良発生に対する対応
不良の報告を受け、社内調査を行い原因を特定し、不良になる対象範囲を特定し、それ以外は問題ない確証を得てお客様に報告しました。
今回の不良は、お客様の最終検査で問題がなくても、将来、お客様の先のエンドユーザーの使用時に発生する可能性も考えられるものなので、当然、お客様も慎重になります。
お客様の品質の責任者は「少しでも怪しいものは受け取れない」との一点ばりで話も聞いてもらえない状況でした。
その責任者とは比較的長い付き合いで、人間関係も構築していましたが、さすがに今回の件は厳しいとのことでした。
私も、その状況、立場はわかるので、対応に悩みました。
対象の製品は、ある一定時間で、お客様で使用しないと使えなくなる、工業製品ですが、生ものに近いので、時間的な制約もあり、短期での対応も必要になりました。
この時に思った対応は次の2点です。
①.お客様の指示に従って全て廃棄する、この場合、約3,000万円の損失が発生する
②.粘り強く、交渉して、問題がないと判断したものは使用して頂く、この場合は、約100万円の損失に抑えられる
結果的には、組織の一員として考え(会社のため)、②の対応をしました。
お客様の固い扉を開いてもらった方法は紹介できませんが、何とか、話は聞いてもらえるようになりました。
その後、お客様の意見も取り入れて、問題ないものを確実に特定する作業を行って何とか使ってもらいました。
当然、後で不良が発生した場合の「ペナルティー」も定めました。
その結果、損失は約300万円に抑えることができ、その後、本件での、市場(エンドユーザー)での不良報告は入っていません。
選択は正しかったのか?
社長からも今回の対応に関して一定の評価を得られましたが、その後も、この時の判断について迷っています。
救済に関しては、お客様、特に尽力して頂いた方に対して多大な労力を費やして頂いて、その方々はお客様の社内から「対応が甘い」と言われた可能性もあります。
今回の件で、お客様からの「信頼」は確実に低下しました。
また、自社内でも、損失が抑えられたことにより、危機感が低下したことも否めません。
大きな損失を計上した方が、その後の組織の体力強化になったかもしれません。
品質保証部長として、社内からの批判はあるが、「お客様のため」と「社内の品質管理体制の強化の面」では、①の対応を選択した方が良かったのではないかと今でも迷っています。
今回紹介した内容は、コンプライアンスの観点では、少し異なるかもしれませんが、会社のさまざまな活動の中で、コンプライアンスにつながることは多いと思います。
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