九州を元気に、日本を元気に ~成長戦略を支える人と技術~
11月9日に「西日本工業倶楽部」主催の講演会を聴講しました。
演題は「九州を元気に、日本を元気に~成長戦略を支える人と技術~」で、講師は「九州経済産業局の岸本吉生氏」です。
今後の、特に九州における成長戦略について、主な内容について紹介します。
1.九州経済の現状
「現在の九州の経済は、緩やかに持ち直している」とのことです。
生産は横ばい、輸出は足踏みですが、個人消費は緩やかに持ち直していて、雇用情勢は改善。ただし、国内需要や海外経済の動向などに引き続き注視する必要があり。
企業金融についても、企業の業績改善や金融緩和政策の影響もあって、資金繰りや金融機関の貸し出し姿勢は緩やかな改善傾向。
2.ITによる産業構造・経済社会の革新
講演で紹介されました3つの項目の概要を示します。
① モノのインターネット(IoT)の普及
モノのインターネット(IoT:Internet of Things)とは、「モノ」に対し、各種センサーを付けてその状態をインターネットを介し、モニターしたり、インターネットを介し「モノ」をコントロールしたりすることにより、安全で快適な生活を実現するものと定義されています。
現在でも、一部実用化されていますが、今後更に普及し、2013年の30兆円が、2020年には200兆円規模の経済価値を創出すると予測されています。
幾つかの事例を紹介します。
・製造プロセス分野:各製造設備からの情報や受注状況のデータを収集し、最適な生産を実施
・モビリティ分野:交通事故・渋滞の低減等に加え、自動走行技術を活用した新システムの構築
・スマートハウス分野:各種のセンサーからの情報を基に、省エネの推進
・医療、健康分野:各種機器からの健康データを集約し、早期に異常を発見し、予防することによる医療費の削減
・行政分野:統計を補完するリアルタイム経済指標、個人や企業から発信される情報を有効に活用し将来予測の精度向上
*私の知識不足で的確な事例を示してないと思いますが、ビッグデータの処理も取り入れて、従来にないシステムが実現されると思われます。
② ロボットの技術の進展
国内ロボットメーカーのロボット出荷額は「約6,000億円(2014年)」で、九州の出荷額は「約730億円(全国シェア:18.1%)」、九州はロボットの先進地域。
政府は平成27年1月に「ロボット新戦略」を策定。
日本を世界のロボットイノベーション拠点化し、「IoT時代」のロボットで世界をリードする世界一のロボット利活用社会を目指しています。
今後、ロボット自体が劇的に進化(自律化、情報端末化、ネットワーク化)し、あらゆる分野で使用されていくことが期待されています。
主な適用分野について示します。
・製造分野:双腕作業ロボットの進化(作業の正確さだけでなく各種のデータを収集し有効活用)
・農業分野:野菜、果樹採取ロボットなどの普及(高生産性農法に寄与)
・介護分野:介護サポートロボットの導入により現場負担が小さく効果的な介護サービスの提供
・インフラ分野:インフラ点検ロボット(橋梁やトンネルの劣化データの収集など)による予防保全
福岡県は「構造改革特別区域法」による「ロボット開発・実証実験特区」の認定を受け、平成16年に全国で初めて公道でのロボット歩行等の実証実験を行うなど、ロボットの先進地域です。
また、北九州市は平成26年3月に「北九州市ロボット産業振興プラン」を策定し、我が国をリードするロボット産業拠点の形成を目標に取り組みを推進中です。
次の機関を中心に多くの企業が参画して、各種のロボット及びその周辺技術を開発しています。
・福岡県ロボット・システム産業振興会議
・産業用ロボット導入支援センター
・北九州ロボットフォーラム
・九州工業大学 社会ロボット具現化センター
③ 地域経済分析システムの構築
経済産業省では、地域経済に係わる様々なビッグデータ(企業間取引、人の流れ、人口動態、等)を収集し、かつ、わかりやすく「見える化」する「地域経済分析システム(RESAS)」により、「産業マップ」、「農林水産業マップ」、「観光マップ」、「人口マップ」、「自治体比較マップ」の5つの情報を提供しています(今後「医療福祉マップ」など追加予定)。
一部は、個別企業情報や個人情報が含まれるため、限定的な利用になっているものもありますが、原則は公開されているとのことです。
3.成長産業戦略
豊かな自然を活かしグローバル(地球規模)な視点で課題に挑戦する九州の成長戦略として、「九州・沖縄Earth戦略」が推進されています。
次に示す4つの戦略分野が連携して、アジアのゲートウェイとして持続的な発展を目指しています。
各分野の主な取り組み項目を紹介します。
① クリーン(エネルギー・環境)分野
・クリーンで経済的なエネルギーの供給拠点化(水素、地熱、洋上風力、海洋エネルギー、高効率火力)
・次世代自動車の生産・開発の拠点化
・省エネルギー先導拠点の形成
・アジアにおける環境・エネルギー関連産業の先導
② 農林水産業・食品分野
・海外市場への展開促進
・国内外の販路開拓・最適生産体制構築
・九州ブランドの創設
・物流、輸送システムの強化(アジア向け、特に船便では九州は地の利がある)
・事業規模の拡大、安定供給体制の構築
・農村発の再生可能エネルギーの活用
・農山漁村の振興
③ 医療・ヘルスケア・コスメ分野
・健康長寿を目指した予防医療、健康増進サービスの産業創出
・医療機器分野への参入促進、海外展開
・先進医療、治療分野における新産業の創出
・機能性、健康食品関連産業の活性化
・化粧品関連産業の振興
④ 観光分野
第二期九州観光戦略の確実な実施として、(「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産の登録と併せて)
・九州ブランドイメージの形成
・観光インフラ整備
・九州への来訪促進
・来訪者の滞在、消費の促進
クールジャパンと連動した観光振興
4.更なる成長のカギ
今後の更なる成長のカギとして、4つの視点について紹介されています。
① 地域中核企業の養成
現在、就業者数が1,000人以上の大企業は、全企業数の「0.1%」であり、100人未満の中小企業は「98%」を占めています。
そのため、これからの日本の成長には、中小企業の役割が重要になります。
中小企業の支援として、「3つの見える化」が進められています。
<成功の秘訣の見える化>
経済産業省は、中小企業に成功・失敗事例や人材育成などの情報をわかりやすく提供しています。
・成功・失敗事例の見える化「ミエル・ヒント~成功のカギ・ワナ」
http://www.meti.go.jp/interface/php/honsho/mieruka/
・政府の取組、支援策の見える化
・成功のための人材育成・確保の見える化
<ビジネスチャンスの見える化>
地域の中小企業が飛躍するためには、地域内外のビジネスチャンスを見える化し、提供することが重要です。
このため、地域内外の大手企業。海外企業等のニーズを、中小企業にマッチングする仕組みを提供しています。
・大企業の求める技術の見える化
地域の壁を越えたビジネスマッチングを行うため、全国の大手企業や海外企業のニーズを把握し、これを中小企業につなげるマッチングシステムを構築しています。
*独立行政法人中小企業基盤整備機構の「J-GoodTech」
・技術シーズの見える化
産業技術総合研究所や公設試験研究機関が、中小企業に対して、産総研や大学等の技術シーズを橋渡しする研究を実施するなど、中小企業の研究開発活動を技術的に支援・保管しています。
<支援体制の見える化>
よろず支援拠点等の支援機関に加えて、中核企業等を創出するための支援ネットワークの構築を進めています。
九州においては、先に示した「九州・沖縄地方成長産業戦略(Earth戦略)」の推進として、「九州・沖縄地方産業競争力協議会」が中核となって、次のプラットホームに企業が参画して活動を進めています。
・九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会(SIIQ)
・九州ヘルスケア産業推進協議会(HAMIQ)
・九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ(K-RIP)
② サービス産業の生産性向上
経済産業省の調査では、「運輸、卸・小売、宿泊、飲食、医療、介護・保育などのサービス産業は、製造業に比べて労働生産性が低い」。
*労働生産性=付加価値額/従業員数 *付加価値額=売上高ー費用総額+給与総額+租税公課
生産性向上のための手法として次に示す視点が紹介されています。
1.付加価値の向上
①誰に:新規顧客層への展開、商圏の拡大
②何を:独自性・独創性の発揮、ブランド力の強化、顧客満足度の向上、価値や品質の見える化
③どうやって:機能分化・連携、IT利活用(付加価値向上に繋がる利活用)
2.効率の向上:サービス提供プロセスの改善、IT利活用(効率の向上に繋がる活用)
また、大学等が、サービス業の人材育成に関して、産業界(主にサービス事業者)と産学コンソーシアムを組成し、専門的・実践的な経営教育プログラムを共同で開発する動きもあります。
九州・沖縄での取組について紹介します。
・九州工業大学(福岡県):地域資源(ストック)活用型サービス経営人材育成事業
・中村学園大学(福岡県):栄養科学と流通科学の融合による食産業サービス経営人材の育成
・宮崎大学(宮崎県):食を中心とした総合レジャー産業を担う人材育成プログラムの構築
・琉球大学(沖縄県):沖縄21世紀ビジョンを担うグローカルサービス経営人材の育成
③ 地域資源の有効活用
地域資源の有効活用に関して、次の主旨の施策が実施されています。
●「中小企業地域産業資源活用促進法」の改正により、地域資源(農林水産業・鉱工業・観光)を活用した中小企業の事業活動による地域活性化を支援する仕組みを強化。
●市区町村による「ふるさと名物応援宣言」を軸とした地域ぐるみの取組を促すため、「応援宣言」の対象となった「ふるさと名物」に対し、①補助金の優先採択、②情報発信等を通じ、施策リソースを集中的に投入するとともに、③担い手となる人材育成を支援。
●これにより、地域資源の魅力を活かした「ふるさと名物」の地域ブランド化(高付加価化)を図り、自律的な地域経済の好循環を実現。
<九州地域における「ふるさと名物応援宣言」の先行事例>
「ふるさと名物応援宣言」とは、中小企業者が地域産業資源を活用して他地域の企業との差別化を図り、商品やサービスの付加価値を高めてブランド化を推進する活動を、市町村が応援できる取組です。
宣言を行うことで市町村が積極的に地域ぐるみの断続的な取組に関与し「地域ブランド」を育成・強化し、地域経済の好循環に繋げることを目的にしています。
これまでに九州で宣言された「ふるさと名物応援宣言」の例を示します。
・熊本県山江村産の栗(やまえ栗)を活用した加工群 応援宣言(熊本県山江村) *平成27年9月27日
・エミューを活用した商品群 応援宣言(佐賀県基山町) *平成27年10月1日
・有田焼 応援宣言(佐賀県有田町) *平成27年10月2日
④ 多様な人材の活用(ダイバーシティ経営)
現在、「優秀な人材の確保」のために、「子育て中の女性の活用」「意欲と技術のある高齢者の活用」「留学生の九州企業への就職支援」など、様々な施策が実施されています。
この中で、九州の中小企業の海外展開に向けた人材確保の取組について紹介します。
九州で学ぶ留学生は、「約18,000人」に対して、九州企業への留学生就職率は「5.4%」と低い状況です。
平成23年11月に産学官(九州経済連合会、麻生塾、九州経済産業局)が連携した「九州グローバル産業人材協議会(会員数302)」が設立され、九州におけるプラットホーム的な立場で、中小企業庁の補助金を活用して、交流会、就職セミナー、インターシップ等の就職・定着の支援を実施しています。
5.アジアとの連携交流
今後、新興国地域では中間層・富裕層が増加、ASEAN各国では中間層の人口が拡大しており、特にインドネシア、ベトナムでの増加が見込まれます。
これに併せて、日本とASEANと貿易量は、輸出、輸入ともに増加しています。
九州においても、国や民間団体と「MOU」を締結して戦略的に海外展開を推進しています。
*MOU:Memorandum of Understanding の略で、協定の内容から、日本語では通常「経済交流に関する覚書」と称されています。
九州が締結しているものは次に示します。
・九州経済国際化推進機構が締結したMOU(相手先が政府機関):ベトナム、インドネシア、タイ
・九州経済連合会が締結したMOU(相手先が民間団体):香港2件、台湾、インドネシア、ミャンマー、シンガポール、インド、上海の民間団体
・産業クラスターが締結したMOU:中国2件、フランス2件、韓国、マレーシア、ベトナム
*産業クラスター:九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ、九州地域バイオクラスター推進協議会、九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会
また、九州地域では、2001年3月から、中国、韓国の中央政府や経済団体とのパートナーシップのもと、環黄海圏の経済交流の深化を図るため、「環黄海経済・技術交流会議」を開催しています。
さらに、韓国、台湾とも積極的な経済交流を推進しています。
九州は、日本の中でも、地理的に、韓国、中国、台湾やASEAN諸国と近い位置にあり、例えば船便の基地としても有利です。
今後、益々、九州とアジア諸国との経済交流が進むことが期待されています。
以上、九州経済の現在の状況と今後の成長戦略について、講演の中の主要な項目について紹介させて頂きました。
資料は、80ページにおよび、今回はその中を部分的に紹介しましたので、正確に伝えられない点もあるかと思いますが、その点はご了承願います。
今後、地方創生という観点で、九州でも様々な施策が行われていくものと思います。
北九州アシスト法務事務所は、主に、中小企業支援を業務とする行政書士事務所です。
中小企業の様々な経営面での課題に関して、取り組ませて頂きます。
「経営改善」「資金調達(融資)、補助金申請」「現場改善(5S活動、課題解決手法)」「外国人の就労ビザ申請(2016年から実施予定)」など、様々な支援をさせて頂きますので、お問い合わせをお願いします。
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