「ものづくり補助金」は、この要件を満たさないと審査もされません
3月10日に「ものづくり補助金」一次募集の公募要領が公表されました。
もうすでに、ご覧になっていることと思いますが、「ものづくり補助金」は定められた要件を満たしていないと審査もされません。
そこで、要件について、当社と連携しています「五島俊幸」経営コンサルタントに紹介してもらいます。
よく補助金は、“返さなくてもいいお金”ということで、申請を考えられている社長さんも多いことと思います。
でも、そんなにうまい話はありません。特に国が交付する補助金は、元はと言えば“税金”です。
当然、申請書の内容だけでなく、その要件も厳しいものになります。
そこで、「ものづくり補助金」が採択されるための要件、つまり“補助金をもらうために、国から要求されていること”についてお話しします。
1.ものづくり補助金の採択要件とは?
下の図は、「ものづくり補助金」の採択要件の全体図です。
採択されるための要件として、「必須項目」と「審査・加点項目」があります。
「必須項目」は、この要件を満たさなければ、審査対象にもなりません。つまり“門前払い”です。
特に、数値目標のなかには大変厳しい条件もあります。
次に「審査・加点項目」は、申請書の内容により点数がつけられます。その点数が高いと採択される可能性も高くなります。
今回は、この中の、「必須項目」について詳しくお話しします。
「必須項目」には、2つあります。“補助対象者に該当するのか”という「適格要件」と、“補助の対象事業に該当するのか”という「事業要件」です。
2.適格要件(補助対象者に該当するのか)
補助対象者は、日本国内に本社及び補助事業の実施場所がある中小企業者および特定非営利活動法人に限ります。なお、中小企業者のなかには個人も含まれます。
ただし、以下の中小事業者等は、補助対象者から除かれます。
・みなし大企業(発行済株式の総数又は出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している中小企業者等)
・申請締切日前10か月以内に「ものづくり補助金」の交付決定を受けた事業者
なお、詳しい要件については、公募要領を必ず確認してください。
3.補助対象事業の要件
① 以下の要件をすべて満たす3~5年の事業計画を策定し、従業員に表明していること
詳しい内容は、「4.特に注意する要件とは?」でご説明します。
②交付決定日から10ヶ月以内(ただし、採択発表日から12ヶ月後の日まで)の事業実施期間に、発注・納入・検収・支払・実績報告等のすべての事業の手続きがこの期間内に完了する事業であること。
この内容を今回の一次公募で具体的な日付にしてみます。
交付決定日(予定)が2020年5月末なので、その10ヶ月以内は2021年3月末までになります。従来は約半年でしたので、それよりは長くなりました。
この期間に、機械装置等の発注、納入、検収、支払(原則、銀行振込)、報告等のすべての手続きをすることになります。長くなったとはいえ、なかなか厳しい日程になります。
③事業の主たる課題の解決そのものを外注又は委託する事業
試作品の開発等をすべて他社に委任することや、機械設備等を外注先の他社等に設置することはできません。
④試作品等の製造・開発の全てを他社に委託し、企画だけを行う事業
いわゆる「ファブレス」と呼ばれる企業のことです。
これ以外にも、一般的な条件がこまごまとあります。詳しくは公募要領をご覧ください。
4.特に注意する要件とは?
事業要件には、①事業計画のなかの数値目標として3つがあります。3つとも厳しい目標です。
その中でも、特に注意をしておくのが、「給与支給総額を年率平均1.5%以上の増加」と「付加価値額を年率平均3%以上の増加」です。
数値目標は、年率平均の増加率になっています。率なのでピンとこないと思い、この2つの数値目標を具体的に試算してみました。試算することで、金額として実感できます。
そのうえで、補助金の申請をするかしないかを決める判断材料にしてください。
(1) 「給与支給総額を年率平均1.5%以上の増加」の試算
試算した結果が、以下の表です。
この試算は、給与支給総額が年間1億円とした場合になります。
給与支給総額の増加率が年率平均1.5%ということは、現状から3年後に4.5%以上に、5年後には7.5%以上にすることを求められます。
金額では、5年後は現状より750万円多くなります。5年間の総額では2,250万円の増加です。この金額は、補助金の上限額の1,000万円の2倍以上です。
また、従業員数が倍の50人になると、増加額も4,500万円になります。しかし、補助金の額は1,000万円のままです。
このように、会社の規模が大きくなれば、それだけ影響が大きくなります。
(2) 「付加価値額を年率平均3%以上の増加」の試算
次に、付加価値額の試算結果が次の表です。ここでいう付加価値額とは、営業利益+人件費+減価償却費の合計額になります。
こちらも、付加価値額の伸び率を年率平均が3%以上にすることを要求されています。
補助事業計画が5年間とした場合、5年後には直近期末より15%以上増加していなければなりません。とても高い数値目標になります。
この試算では、現状が1億 2700万円とした場合、5年後に15%以上の伸び率を確保するには、1億4605万円以上にする必要があります。
現状よりも1,905万円以上増加させるということです。この金額は、付加価値額ですので、売上は当然これ以上の額になります。
以上のとおり、数値目標について、具体的に試算してみました。
いずれにしても、利益を継続して出し続ける会社でない限り、この要件をクリアーすることはなかなか難しくなります。
【まとめ】
「ものづくり補助金」は、中小企業が専門機器を購入する場合、一定の補助を受けられる制度ということで関心が高い補助金です。
今年度の公募も3月10日から始まりましたので申請を検討されている社長さんも多いと思います。
そこで、まず、手を付けることは、自社が上記の2つの数値目標をクリアーできるのか試算してみてください。
どうしても伸び率で表現されていると、具体的な金額の感覚がつかめません。
自社の損益計算書をもとに、“付加価値額はいくらか”“その場合、売上がいくら必要なのか”、“人件費がいくらになるのか”ということを具体的な金額で把握することが重要です。
なお、大事なことですが、もし5年後にこの要件を満たすことができない場合、もらった補助金の一部を返還する決まりになっています。
そのうえで、補助金額(上限1,000万円)と比べて、“自社の経営上、「ものづくり補助金」が本当に効果的なのか”を、検討する必要があります。
その結果、この数値目標を満たすのは難しいと判断されるのでしたら、まず、経営改善を始められて利益を継続的に出し続ける会社に変えていくことを優先されてはいかがでしょうか。
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