経営戦略(8)戦略思考:ロジック的に
既に紹介しました、「経営戦略のステップ」を改めて示します。
1.現状を正しく認識する(自社、市場や顧客)
2.自社の「事業ドメイン(事業領域)」を設定する
3.上記に基づいて「事業戦略」を立案する
4.事業戦略に基づいて計画を作成する
今号では、これらの「経営戦略のステップ」の中で必要な「ベースの考え方」について紹介します。
戦略思考
「戦略思考」とは、次の考えによって成り立っています。
1 全体と部分の関係を認識し、全体最適を考える
2 筋道を立てて論理的に考える
3 長期的な視点に立って仮説思考や目的を持って思考する
4 最終イメージを持って行動する
一昔前は「何でもある程度はできるゼネラリストで、組織に従順でまじめな人」が尊重されましたが、現在は「高い専門性を持ちながら、新しい提案ができ、現状を打破できる人」が要求されていると思います。
会社が総合力を発揮するためには、構成員の個々人が戦略化された集団である必要があります。
戦略思考に関係する考え方・手法を紹介します。
MECE(ミッシー)
ミッシー(MECE:Mutually Exhaustive Collectively Exhaustive)は、戦略思考の基本となる考え方で、「モレやダブリをなくす」ことです。
モレやダブリがあるとチャンスを逃したり、ムダが発生します。
モレやダブリをなくすためには、まず全体像を把握しなければならなく、部分だけを見ていたのではモレやダブリに気が付くことができません。
先に紹介しました「現状の正しい認識」や「戦略立案」を効果的に行うには、この考え方がベースになります。
以前の「問題解決のステップ」の中の「要因(原因)分析」で、製造現場での「4M分析:人、機械、材料、方法の観点で要因を分析する」はその一例で、モレやダブリをなくすための観点です。
・モレでチャンスを逃していないか?
モレが発生すると、チャンスを逃してしまいます。
例えば、市場分析では、市場構造は常に変化していますので、「新しい市場が生まれていないか」、モレは早めに見つける必要があります。
・ダブリでムダをしていないか?
ダブリがあるとムダが発生します。
限られた経営資源を有効に使用して目標を達成するには、ダブリをなくす必要があります。
・優先順位を付けて効果的に
ミッシーで「モレやダブリをなくす」本来の目的は、優先順位を付けるためです。
特にミッシーが重要性を増すのは、戦略を立案するときです。
戦略の目的は「会社としての目指すべき方向(目的、目標)に対して、いかに効率的かつ効果的に経営資源(ヒト、モノ、カネ)の配分を行い、競合に差別化を図りながら自社にとって優位な状況を継続するか」に尽きます。
貴重な経営資源の配分にあたっては、できるだけ「モレやダブリをなくし」、優先順位をつけることが、重要になります。
ロジックツリー
ミッシーの観点で、論理的に整理していくために、系統的に整理していく必要があります。
この際に有効な手法として「ロジックツリー(ピラミッド構造)」があります。
「ロジック」とは「論理」、「ツリー」とは「木の幹と枝」のことです。
「ロジック」でツリー状に関連付けて、相互の因果関係や大小関係を明らかにするものです。
先に示した「ミッシー」の考えで、論理的に分解・整理することで、いろいろな課題の「原因追及」や「対策立案」に役立てることができます。
事実や考えられることを系統的に結び付けることにより、次の利点があります。
(1) 全体像が明確になる
(2)「モレやダブリ」を抽出することができる
(3) 各項目の大小関係(重要度)が明確になる
(4) 各項目の因果関係が明確になる
これらにより、具体的な原因特定や対策立案が可能になります。
原因追及のロジックツリー
「なぜかを追及する(真の原因を探る)」際に使用する方法です。
課題に対して、重要な要素を設定して、その要素に対して、「なぜなぜ分析」の観点で、「なぜそうなるか、どうしてそうなのか」をブレークダウンしていく手法です。
まず「大きな枝を3本位」選定(この段階でモレがないように)、この大枝に対して「中枝を3本位」選定、さらにこの中枝に対して「小枝を3本位」選定します(必要に応じて更にブレークダウン)。
そして、仮に完成した「ロジックツリー」を先に示した「①~④の観点」で眺めて(精査して)、修正を行います。
モレがあれば追加し、ダブリがあれば整理し、因果関係に矛盾があれば修正します(例えば中枝と小枝が逆になっている)。
こうして完成した「ロジックツリー」を見て、重み付け(順位付け)を行います。
この重み付けは、これまで調べた結果(現状分析)や経験により決定され、場合によっては「追加の調査・検証」を行います。
この重み付け(順位付け)した、上位「3項目程度」に対して、対策を検討していきます。
もし、設定した原因が間違っていても、再度、ロジックツリーを眺めて、他の要因を比較的容易に抽出することができ、次の対応をスムーズに実施することができます。
対策立案のロジックツリー
「どうするかを追及する(真の解決策を探る)」際に使用する方法です。
課題に対して、重要な要素を設定して、その要素に対して、「どうするのか、どうしたら良いのか」を追及していく手法です。
例えば、「利益を増やす」ことが課題の場合、「売上向上」「仕入・原材料の価格ダウン」「間接部門費の低減」などが「大枝」として抽出されます。
そして、各大枝に対して、更に「どうするのか、どうしたら良いのか」を検討します。
「売上向上」には、「単価のアップ」「販売量のアップ」などが考えられ、更に「単価をアップさせるにはどうするか」を考えていきます。
「原因追及のロジックツリー」と同じように、仮に完成した「ロジックツリー」を先に示した「①~④の観点」で眺めて(精査して)、修正を行い、ロジックツリーを完成させます。
こうして完成した「ロジックツリー」を見て、重み付け(順位付け)を行います。
この重み付け(順位付け)した、上位「3項目程度」に対して、対策を検討していきます。
選定した対策の効果を予測することにより、目標を達成できるかを把握して、足りないようであれば、ロジックツリーの中の別の対策を選定することができ、次の対応をスムーズに実施することができます。
ゼロベース思考
人は「ものを考える時」はどうしても、「これまでの経験」や「自分を取り巻く環境の中」に基づいて、制限をかけてしまいます。
「過去はこれで成功した(失敗した)」「うちの会社ではこんなことはできない」「上司がこう言うから」など、いろいろなことが考えられます。
この時に、「真の原因、あるいは対策は何か」を制限なく、冷静に考えることが必要です。
この時に必要な観点は次の2点です。
(1) 自分あるいは組織の狭い枠の中で考えない
(2) 顧客(相手)の立場になって考える:顧客の利益を考える
自分(自社、組織)の都合ではなく、「真の姿」を追及して考え、その後に「制約条件」を検討して「実施の判断」を行う必要があります。
考えた時点で、「制約条件」を決めないで、絶対必要であれば「制約条件を克服する策」を検討すべきです。
例えば、検討の結果、「設備投資が必要」となったが、手持ち資金が足りない場合、あきらめるのではなく、「融資などの資金調達」「補助金申請」などの策を検討する必要があります。
②の「顧客視点」は、「ゼロベース」で考えるときの拠り(原点)になります。
どうしても自分(自社)基準で考えてしまいますが、「顧客の立場」で考えることが、「ゴール(真の解)」に近付ける可能性を高くします。
仮説思考
「仮説」とは、「仮の結論」のことで、正しい結論を、分析の積み重ねと試行錯誤で出すのではなく、最初に仮説(仮の結論)をおいて、それを検証するやり方をすると、最小限の労力と期間で、結論を導くことができる可能性が高まります。
結論に関係ない部分での分析や作業は無意味になり、それを防ぐには、「仮説を幾つか立てて、それを一つづつ検証」していく方が効率が良いです。
「新製品の開発」、あるいは「課題の解決」の場合の手順を示します。
(1) 仮説を設定する
(2) 設定した仮説を検証するための「調査やデータの収集」を行う
(3) 収集した調査やデータの検証を行う
(4) 検証の結果、仮説が正しいと判断されれば「結論」とする
*正しくなければ、他の仮説の検証を行う
(5) 「結論」としたものの対策を立案して実行する
「経営戦略」について、8回に分けて紹介してきました。
ここで紹介したものは、「経営戦略」を立案して、実行するために必要なものと思いますが、各々の会社・組織において、状況は様々で、個別に検討する必要があります。
各会社の課題を一緒に検討させて頂き、最良の方策を導けるようにご支援させて頂きたいと願っていますので、ぜひ、ご相談をお願いします。
今回の一連の「経営戦略(1)~(8)」については、次の資料を参考にし、これに自分の経験、視点を加えて紹介しました。
<参考資料>
① 中央経済社 経営コンサルティング1 経営の基本
② 日本実業出版社 よくわかる経営戦略
③ 日本能率協会マネジメントセンター MBAマネジメントコース 事業戦略
④ 企業経営通信学院 中小企業診断士コース① 企業経営理論
⑤ すばる舎リンケージ これだけ!ビジネス理論
⑥ ダイヤモンド社 問題解決プロフェッショナル 「思考と技術」
⑦ 北九州商工会議所主催 問題解決スキルアップセミナー「ビズ・ナビ&カンパニー 原コンサルタント 講演」
⑧ 北九州テレワークセンタービジネスセミナー「梓書院 田村社長 講演」
関連記事
-
-
人件費は最大のコストであり、投資でもある
企業の経営資源として「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」と言われています。 中小企業 …
-
-
9月8日 「創業支援セミナー」受講
9月8日(火)に北九州市小倉で、日本政策金融公庫主催で、TKC九州会北九州支部( …
-
-
当社は「経営革新等支援機関」の経営支援が可能です
当社の代表は、経済産業大臣から「経営革新等支援機関」に認定されています。 また、 …
-
-
コンパクトシティー ~人口減への対応~
前回、少子高齢化による人口減少、東京を中心とした都市への人口移動、これによる地方 …
-
-
利益を出し続ける(4)儲けた利益を何に使うかを決める仕組み
連携している「(株)事業パートナー」の投稿記事から、「利益を出し続ける仕組み」を …
-
-
経営戦略(7)計画立案:目標に向かって
本記事は2015年11月に記載したものを2020年11月に一部を修正しています。 …
-
-
経営戦略(1)経営戦略とは?
(本記事は、2015年10月に書いたものを2020年10月に一部修正を加えていま …
-
-
ホワイトカラーの仕事が大きく変わる ~RPAとAIの活躍で私は何をしたら?~
これまで人が行っていた仕事をロボットが代わりに行う。 製造現場(工場)では当たり …
-
-
売上を上げ続ける戦略(4)商品・製品は”売れた”ではなく”売れる!!”のである
これまで紹介しています弊社が提供している『売上向上支援パッケージ』は、販売の方法 …
-
-
経営戦略(6)戦略立案:どうやって勝つのか(2)
これまで、経営戦略について、「現状(自社、市場・競合)を正しく理解」することの重 …
前後の記事
- 前の記事
- 経営戦略(7)計画立案:目標に向かって
- 次の記事
- 民事法務(1)相続・遺言