外国人の定着(4)家族滞在が定着率を高める理由
外国人社員の「仕事」だけでなく「生活と家族」を考える
これまで「外国人材が定着する会社の共通点」として、第1回では「外国人材はなぜ辞めるのか」、第2回では「日本語能力より重要なもの」、第3回では「外国人社員のキャリア形成と評価制度」について考えてきました。
今回は、少し視点を変えて「家族」に注目します。
外国人高度人材の採用というと、企業はどうしても本人の学歴、職歴、日本語能力、専門性などに目を向けます。
もちろん、これらは重要です。
しかし、外国人社員が日本で5年、10年と働くことを考えた場合、「仕事」だけではなく、「日本でどのような生活を築けるか」が非常に重要になります。
特に、結婚している外国人や将来結婚を考えている外国人にとって、
「配偶者と日本で暮らせるのか」
「子どもを日本で育てられるのか」
「家族が安心して生活できるのか」
という問題は、勤務先を選ぶうえでも大きな要素になります。
外国人材の定着を考えるのであれば、企業も「本人だけを採用する」という発想から、「その人の人生や家族も日本で生活していく」という視点を持つことが必要です。
単身赴任をいつまで続けられるか
海外から外国人材を採用した場合、最初は本人だけが来日することがあります。
20代の独身者であれば、それほど大きな問題にならないかもしれません。
しかし、母国に配偶者や子どもを残して来日している場合、事情は大きく異なります。
「子どもの成長をそばで見たい」
「配偶者と一緒に暮らしたい」
「親として家族を支えたい」
という思いを持つのは当然です。
仕事自体に不満がなくても、家族と離れて暮らす状態が長く続けば、「母国に帰ろうか」「家族と暮らせる別の国へ行こうか」と考えることもあります。
逆に、家族と一緒に日本で安定した生活を築くことができれば、日本で長く働こうという意識は強くなります。
外国人材の定着は、会社の中だけで決まる問題ではないのです。
「技人国」で働く外国人は家族を呼べる
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で働く外国人の場合、一定の要件を満たせば、配偶者や子どもを「家族滞在」の在留資格で日本へ呼び寄せることができます。
ここは、外国人高度人材の定着を考えるうえで重要なポイントです。
家族滞在の対象となるのは、基本的に扶養を受ける配偶者と子どもです。両親や兄弟姉妹を同じ制度で呼び寄せられるわけではありません。
また、単に婚姻関係や親子関係があればよいというだけではなく、日本で家族を扶養して生活できることなども確認されます。
そのため、本人の収入、勤務状況、住居なども重要になります。
外国人社員本人が制度を十分理解しておらず、
「家族を日本に呼べるとは知らなかった」
「どういう手続きをすればよいか分からない」
というケースもあります。
企業がすべての手続きを行う必要はありませんが、基本的な制度を理解し、必要に応じて行政書士などの専門家につなぐことは、外国人社員にとって大きな安心につながります。
家族を呼んだ後こそ支援が必要
家族が来日できれば、それで問題がすべて解決するわけではありません。
むしろ、日本での家族生活はそこから始まります。
例えば、
・住居探し
・住民登録や各種行政手続き
・健康保険などの手続き
・銀行口座や携帯電話
・病院の受診
・子どもの保育園や学校
・日本語学習
など、さまざまな課題が出てきます。
本人は会社で日本人社員と接する機会がありますが、配偶者はそうとは限りません。
配偶者が日本語を十分に話せず、地域とのつながりもなければ、孤立してしまうことがあります。
本人が会社では順調に働いていても、家庭で、
「日本での生活がつらい」
「母国へ帰りたい」
という話が続けば、最終的には本人の退職や帰国につながる可能性もあります。
したがって、外国人社員の定着を考える際には、本人の職場環境だけでなく、「家族が日本で安心して生活できているか」という視点も重要です。
子どもの教育は長期定着を左右する
子どもがいる家庭では、教育環境が特に重要になります。
保育園や幼稚園への入園、小中学校への就学、日本語教育、進学など、子どもの成長とともにさまざまな問題が生じます。
一方で、子どもが日本の学校に通い、友達ができ、日本語を身につけていくと、家族全体の生活基盤が日本に移っていきます。
「子どもをこのまま日本で育てたい」
「高校や大学まで日本で教育を受けさせたい」
と考えるようになれば、本人にとっても日本で長く働くことの意味が大きくなります。
外国人社員の定着を5年、10年という単位で考えるなら、子どもの教育は決して会社と無関係な問題ではありません。
企業はどこまで支援すればよいのか
ここまで読むと、
「会社が家族の生活まで面倒を見なければならないのか」
と思われる経営者もいるかもしれません。
もちろん、そこまで求める必要はありません。
大切なのは、会社がすべてを解決することではなく、「困ったときに相談できる入口」をつくることです。
例えば、外国人社員から、
「妻を日本に呼びたい」
「子どもの学校について相談したい」
「在留資格について分からない」
と相談されたときに、「会社には関係ないから自分で調べてください」と対応する会社と、
「分かる範囲で一緒に確認しましょう。専門的なことは専門家に聞きましょう」と対応する会社では、本人が感じる安心感は大きく違います。
会社としては、人事担当者や相談担当者を決め、行政手続きは行政書士、労務関係は社会保険労務士など、必要に応じて外部専門家につなげられる体制を作っておけばよいのです。
「家族滞在」から「日本での将来」へ
外国人高度人材が日本で長く働くようになると、次の関心は「これからも日本で生活できるか」ということへ移っていきます。
そこで出てくるのが、
「高度専門職に変更できないか」
「永住許可を取得できないか」
「将来は日本国籍を取得したい」
といった相談です。
特に永住許可を取得すれば、在留活動や在留期間についての制限が大きく変わり、住宅購入や家族の将来設計なども考えやすくなります。
外国人社員にとって、「日本で働く」という段階から、「日本で家族と暮らす」そして、「日本を生活の本拠にする」という段階へ進んでいくことになります。
企業にとっても、その社員が日本で長期的な生活基盤を築くことは、人材定着という面で大きなメリットがあります。
家族への配慮は福利厚生ではなく「人材戦略」
外国人社員の家族支援というと、福利厚生の一つと考えられがちです。
しかし、人材不足が深刻化するこれからの時代には、もう少し経営的に考える必要があります。
外国人技術者を採用し、数年間かけて技術を教え、日本語での業務にも慣れ、取引先との関係も築いたところで退職されれば、企業にとって大きな損失です。
新しい外国人を採用すれば、また一から教育しなければなりません。
一方で、家族とともに地域に根付き、日本で将来を描いている外国人社員は、会社にとって長期的な戦力になる可能性があります。
家族への配慮は単なる「優しさ」ではありません。
外国人材への投資を無駄にせず、優秀な人材に長く活躍してもらうための「人材戦略」として考えるべきものです。
行政書士ができる支援
外国人社員本人だけでなく、その家族についても、在留資格に関するさまざまな手続きが発生します。
例えば、
・海外にいる配偶者や子どもの呼び寄せ
・家族滞在の在留資格認定証明書交付申請
・在留期間更新
・配偶者の就労に関する資格外活動
・本人の高度専門職への変更
・永住許可申請
などがあります。
外国人社員が安心して日本でキャリアを形成していくためには、「仕事」と「在留資格」と「家族の生活」を別々に考えるのではなく、将来を見据えて整理することが重要です。
当事務所では、企業からの外国人材受入れに関する相談だけでなく、外国人社員本人やそのご家族からの在留資格、家族の呼び寄せ、永住などの相談にも対応しています。
~「家族も安心できる会社」が選ばれる~
外国人高度人材の定着を考える場合、給与、仕事内容、日本語教育、評価制度だけを整えれば十分というわけではありません。
本人の人生には、その先に家族があります。
「家族と一緒に暮らせる」
「子どもを安心して育てられる」
「将来も日本で生活できる」
という安心感があってこそ、「この会社で長く働きたい」という気持ちにつながります。
企業が家族の問題をすべて解決する必要はありません。
大切なのは、外国人社員を単なる「労働力」として見るのではなく、日本で生活する一人の社員として、その人生や家族にも目を向けることです。
外国人材に選ばれる会社とは、外国人本人だけではなく、「家族も安心して日本で暮らせる会社」なのかもしれません。
そして、その環境づくりが、結果として外国人材の長期定着と企業の成長につながっていきます。
次回は、シリーズ最終回として、「外国人が紹介したくなる会社づくり」をテーマに、定着した外国人社員が新たな外国人材を呼び込む「紹介・リファラル採用」の可能性について考えます。
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