永住権の取消しの要件
2024年6月14日に「入管法等」が改正され、6月21日に公布されています。
その中で、「永住許可制度の適正化」についても定められています。ここでは、「永住許可制度の適正化」について、その趣旨と、その中の「永住許可取消しの要件」について概要を紹介します。
永住許可制度の適正化の概要
入管の資料で示されている永住許可取消しのフローを示します。
「永住許可の要件を満たさない」との疑いが生じた場合、事実関係の調査を行い、調査結果の内容により、下図に示す3通りの対処がなされます。
*図の「Q7、Q8・・・」は、入管のホームページに示されている「Q&A」の番号
永住許可の取消し制度の趣旨
永住許可の取消し制度が必要になる理由は、日本に在留する外国人が責任ある社会の一員として、最低限のルールを守ることを期待されていることにあります。永住許可を受けた外国人は、通常の在留資格者と異なり、在留期間の更新や活動の制限がない特別な地位を持ちます。しかし、この特別な地位は、永住者が公的義務を果たし続けることを前提としています。
現行の制度では、永住許可を得るために
(1)素行が善良であること
(2)独立して生計を営む能力を持つこと
(3)「日本国の利益に合すること
といった要件が課されています。
これらの要件を満たすことで初めて永住が許可されますが、永住許可後には在留審査の手続きがないため、一部の永住者が公租公課の支払を怠るなど、義務を果たさない事例が見られます。このような行動は、永住許可制度の趣旨に反するものであり、適切に義務を履行している永住者や地域社会に不公平感をもたらすおそれがあります。
さらに、永住許可はその者の永住が日本国の利益に合することが要件とされており、これは公的義務の履行が期待されているからです。したがって、永住許可後に故意に公的義務を果たさない者に対しても、特別な地位を継続して認めることは不適切です。このため、永住許可の取消し制度を導入することで、永住者にも適切な在留管理を行い、永住許可の趣旨を保つ必要があります。
取消し制度は、在留状況が良好と評価できない場合に限り適用されるため、過剰な措置ではなく、永住者としての特権に伴う責任を果たさない者に対する合理的な対応であると考えられています。
永住許可の要件を満たさなくなるケース
1 公的義務の不履行
・公租公課(税金や社会保険料など)の未払い
病気や失業などやむを得ない理由がある場合を除き、故意に支払義務を怠った場合、永住許可の要件を満たさなくなります。
2 在留カードに関する義務の不履行
・在留カードの携帯や有効期間の更新申請を怠った場合
うっかりしたミスによるものでは取り消し対象にはなりませんが、正当な理由なく義務を果たさない場合、永住許可が取り消される可能性があります。
3 重大な刑罰法令違反
・故意に重大な刑罰法令違反を犯した場合
例えば、窃盗、詐欺、恐喝、殺人などの刑法犯罪や危険運転致死傷の罪が該当します。過失による交通違反や罰金刑は対象外です。ただし、1年以上の実刑が課された場合は退去強制の対象となります。
4 差押処分などによる公租公課の充当
・滞納処分で公租公課が充当された場合
差押えによる公租公課の支払いが行われたとしても、それだけでは在留資格の取り消しになることはありませんが、支払状況や未納額などの状況に応じて判断されます(永住許可要件を満たさなくなる場合)。
これらの要件を踏まえ、永住者は公的義務を適切に履行し、法律を遵守することが重要です。
今回の改正により、「永住許可の取消し」が明確になりました。
現在、当事務所にも「永住許可」に関する相談や申請支援の依頼が増えています。長く日本で生活したい外国人の方は、在留期間の更新のプレッシャーから開放される「永住許可」は魅力的です。
そのため、永住許可を得るための施策(給与の確保、納税、社会保険料の納付)は実施します。苦労して「永住許可」を受けた後に、税金や社会保険料の納付を意図的に実施しない方も存在するのは事実だと思います。
今回の法律の改正内容が周知され、永住許可を得た外国人が、生活のための基本的な日本の法律・制度を理解して守って頂き、外国人との共生社会の実現が期待されます。
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