技能実習と特定技能の制度改革
30年以上続いている「技能実習制度」の見直しが政府(法務省)で進められています。
現在、工場、建設現場、農場、介護現場等で働く制度として、
・技能の取得を目的とした「技能実習」
・作業員として働く「特定技能」
があります。
「技能実習」制度の場合、次の問題が指摘されています。
・失踪者が多い(実習生側、企業側、双方に問題あり)
・研修目的のはずが、生産要員としての位置付けのところが多い
・諸外国から「人権面」の批判がある
これらの点を受けて、政府は有識者会議等で「技能実習制度」の改革を検討しており、現在、最終報告書をまとめる段階に入っています。
今回、政府に対して、「一般財団法人 外国人材共生支援全国協会」(通称:NAGOMi)が、内部でまとめた内容を提言として提出し、その内容が公開されています。
「NAGOMi」の組織概要を示します。構成メンバーから政府に対する発言力は強いと思います。
協会名
一般財団法人外国人材共生支援全国協会
英語:National Association for Global & Open Minded Communities
通称:NAGOMi
設立日
2020年10月8日
所在地
東京都千代田区一番町4-42一番町Ⅱビル6階
代表者代表理事/会長 武部 勤
会員数
222会員 *2023年7月20日時点
目的
アジアの安定と日本の持続的成長のために共に活躍できるグローバル人材共生社会の環境整備を推進する。
「グローバル人材共生ネットワーク」を全国各地域に展開し、政府や都道府県等と連携して、技能実習生をはじめ外国人材を適切に育成・保護・支援し、差別のない多文化共生社会の実現に寄与する。事業
事業内容
(1) 外国人の就労・生活に関する調査研究
(2) 外国人の在留資格・就労・生活に関する制度の情報収集及び広報活動
(3) グローバル人材共生社会実現のための政策立案及び要請活動
(4) 外国人材雇用に関わる各機関(送り出し機関、監理団体、登録支援機関及び企業・団体等)に関する情報交換及び情報提供
(5) グローバル人材共生に尽くした市民・地域及び企業・団体等の認定・表彰
(6) 日本語研修、技能評価、資格付与など外国人材の育成向上のための支援
(7) 外国人材の育成・保護・支援及び地域交流推進に対する相談助言
(8) 会員の業務水準向上のための基準づくり及び資格の認定
(9) 会員の福利厚生向上のための研修及び交流
(10) その他グローバル人材共生社会実現のために必要な事業
提言から読み取れる主要ポイント
提言から読み取れた内容(私見)を示します。
1 基本方針(総論)
・「技能実習制度」「特定技能制度」、両制度の整合が取れた一貫性がある制度を創設
*両方の制度は内容が変わるが継続される
*「技能実習制度」の廃止はないと思われる
・「人材育成」を重視する
・技能実習:基礎的人材育成期間
・特定技能:実践的人材育成期間
2 職種・分野
・対象職種を原則すべての業種にする
*産業界の現状に即した業種の「大くくり化」を進める
・零細企業、スタートアップ、個人事業主等も利用可能な制度に
3 人材育成機能
・最適な「技能試験」を取り入れる
・能力(技能・日本語)に応じて、家族滞在、永住許可、就労資格取得要件緩和等を認める
4 受入れ人数
・日本経済、各業種の状況に応じて設定する
5 転籍
・技能実習は、初めの3年間は、できる限り一企業での実習を基本とする
*転籍を認める場合もある
6 監理・支援・保護の在り方
・両制度をカバーする許可制の「管理支援機関(仮称)」を導入
・実地検査は、両制度とも「技能実習機構」が実施する
7 特定技能制度の適正化方策
・特定技能に「キャリアアップ制度」を構築
・キャリアアップに反する安易な転職を回避する施策を検討する
8 国・自治体の責務等
・都道府県単位の「グローバル人材共生会議」の設置
・大都会に人材が集中しない施策を検討する
9 送出国・機関及び送出しの在り方
・国は2国間合意形成に努める
・過剰接待やキックバックの禁止
・募集に際するブローカーの排除
・失踪者を多く排出した送出機関へのペナルティ
10 日本語能力の向上方策
・日本語能力を重視 *各制度での日本語能力
・継続的な日本語学習の実施
11 その他
・事務手続きは、大幅なDX化・簡素化
・人権デューデリジェンス(人権DD)の実施
・「技術・人文知識・国際業務」「留学生」「インターンシップ」の実態把握
・偽造書類等の対策強化
ある程度の混乱が予測される
現在の技能実習制度は本来の目的(意義)と実際の運用内容が大きく異なっており、改める必要があることは、ほとんどの人が思っていると思います。
令和4年末時点で、技能実習生は「約32万人」、特定技能人材は「約13万人」、両制度を合わせると「約45万人」になります。現時点(令和5年10月)では、「50万人」を超えていると思われます。
また、両制度に関わっている機関も多くあり、変更内容が周知され、実行されるにはある程度の混乱が予測されます。
ただし、今後の日本の「人材・人手不足」はますます深刻になります。
また、他の国の所得が上がってきていることもあり、今後も日本が東南アジアの若者が働きたい国であり続けることも難しくなっています。
そのためには、働く外国人材、受入れる企業等に有効な制度の整備は必要になります。
また、採用する企業は、収益を上げて、日本人、外国人材ともに満足できる給与水準にすることも重要です。
今後も、制度改定の国会議論等を注視し、必要に応じて、お伝えしていきます。
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