技能実習に代わる新しい制度
技能実習制度は、何度か形を変えながら、30年以上継続し、外国人の「技能の向上」だけでなく、「日本の産業界の持続・発展」に大きな貢献をしてきました。
ただし、その長年の運用の中で幾つかの問題が生じ、現在、政府から委託を受けた「有識者会議」で、制度の見直しが進められています。
議論が進行し、来年(2024年)の通常国会で法制化の予定で進められています。
2023年11月30日に、有識者会議から「最終報告書」が示されています。
新制度のイメージ図
公表されている資料に示されている新制度のイメージ図を紹介します。
この図からは、新制度では従来の「技能実習」に代わり、「育成就労(仮称)」を設けるとされています。
外国人材を技能や日本語の面で「育成」を行いつつ、日本社会の人手不足の対策のための人材確保も考慮しています。
また、5年前に制度化された「特定技能」を「現場作業等」の外国人材活用の根幹として、今回の見直しの制度はその人材供給としての位置付けもあります。
3つの視点(ビジョン)
今回の新制度が、国際的にも理解が得られ、日本が外国人材に選ばれるようになるように、3つの視点(ビジョン)が示され、これに基づいて制度の構築を計ることになっています。
(1)外国人の人権保護
外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること
(2)外国人のキャリアアップ
外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みを作ること
(3)安全安心・共生社会
全ての人が安全安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資するものとすること
4つの方向性
上記の視点を具現化するために4つの方向性が示されています。
(1)技能実習制度を、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度とするなど、実態に即した見直しとすること
(2)外国人材に日本が選ばれるよう、技能・知識を段階的に向上させその結果を客観的に確認できる仕組みを設けることでキャリアパスを明確化し、新たな制度から特定技能への円滑な移行を図ること
(3)人権保護の観点から、一定要件の下で本人意向の転籍を認めるとともに、監理団体等の要件厳格化や関係機関の役割の明確化等の措置を講じること
(4)日本語能力を段階的に向上させる仕組みの構築や受入れ環境整備の取組により、共生社会の実現を目指すこと
2つの留意事項
新制度の検討に当り、2つの留意事項を挙げています。
(1)現行制度の利用者等への配慮
見直しにより、現行の技能実習制度・特定技能制度の利用者に無用な混乱や問題が生じないよう、また、不当な不利益や悪影響を被る者が生じないよう、きめ細やかな配慮をすること
(2)地方や中小零細企業への配慮
とりわけ人手不足が深刻な地方や中小零細企業においても、人材確保が図られるように配慮すること
9つの論点
先に示した4つの方向性を具体化するために、次に示す「9つの論点」について、有識者会議では議論し、提言を出しています。
(1)特定技能制度との関係性
(2)受入れ対象分野・人材育成機能の在り方
(3)受入れ見込み数の設定等の在り方
(4)転籍の在り方
(5)監理・支援・保護の在り方
(6)特定技能制度の適正化方策
(7)国・自治体の役割
(8)送出機関及び送出しの在り方
(9)日本語能力の向上方策
新制度への移行に向けて(私見)
現状の技能実習制度は、長年指摘されていましたが、「建前と本音」の違いです。
建前:発展途上国の若い人材に日本の高い技能を習得してもらい、母国の発展に寄与してもらう(国際貢献)
本音:安い賃金で製造等に従事してもらう(人手不足の対策)
実際は、本音の面が強いと思います。技能実習生も賃金を得ることを目的にしている方が多いと思います。
技能実習生が母国でその実習内容を活かしている割合は不明ですが、断片的に入ってくる情報からでは、ほとんどないように思えます。
今回の新制度の検討でも「育成」が目的に入っていますが、その「育成」は日本の企業等で働くための「技能・日本語」の習得のためと思われます。今回の「有識者会議の提言内容」をざっと読んでも、技能実習で示されている「国際貢献」に関することは見られません。
今後、各企業や業界が関心を特にもつのが、上記の「9つの視点」の中の「(2)人材育成機能や職種・分野等の在り方」だと思います。現在、ほとんどの業界が「人手不足」の問題を抱えています。そのため、「特定技能制度で指定される職種・分野」と併せて、その動向が注目されます。
今後、国会の議論の中でより具体的な内容が示され、議論されると思いますので、動向を注視していきます。
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