技能実習生の失踪とその後
技能実習制度を廃止して、「育成就労制度」に移行する法律が成立し、現在、移行への整備作業が進められています。この技能実習制度を廃止する理由の一つとして、「技能実習生の失踪」の問題があります。
ここでは、技能実習生の失踪について、出入国在留管理庁(入管)が2024年12月に公表しました「技能実習生の失踪者の状況」の中から主な内容を抜粋し、コメントを加えて紹介します。
技能実習生の失踪の推移
下図に、令和元年から令和5年までの「技能実習生数」「失踪者数」「3ヶ月以内に所在不明の数」「令和6年7月時点で所在不明の数」を示しています。令和元年以降の失踪者で「令和6年7月時点」の所在不明者総数は、9,976人で、約1万人の失踪者が所在不明の状態です。
5年間の失踪者数の合計は「40,607人」で、所在不明者が「9,976人」なので、所在不明率は「24.6%」です。
国別・職種別の失踪者の状況
国別の状況
令和5年では、ベトナムが「5,481人(56.2%)」と最も多くなっています。過去5年間でも最多で令和元年から令和4年までは「60%以上」を占めていました。令和5年は2番目のミャンマーの失踪者数が急増したため、割合は減っています。
「ベトナム」と「ミャンマー」の状況は、後述します。
推移を見ると、令和5年と令和4年を比較すると、インドネシアが「約1.8倍」になっており、最近インドネシアからの技能実習生の絶対数が増えていることもあり、今後、インドネシアの失踪者数の増加が予測されます。
ベトナムの状況と対応
ベトナムは国別で最も多いですが、令和5年は人数的には令和4年よりも減少しています。入管では減少要因として、次の2点を挙げています。
(1)失踪者数が多い「送出機関」に対して新規受入を禁止(令和3年実施)。
(2)ベトナムでの法改正で、技能実習生の来日のための費用負担が減少。
<今後の対応>
労働条件等のミスマッチによる失踪の発生をふせぐために、入管が「ベトナム国内で直接啓発するためのリーフレット」を作成し、在外公館等を通じて技能実習を希望する者に周知。
ミャンマーの原因と対応
令和5年の失踪者「1,765人」のうち、「1,739人(98.5%)」が、「緊急避難措置に係る特定活動」に変更していることにより増加しています。
<今後の対応>
誤用・濫用的に緊急避難措置が活用されることを防ぐ対策を実施。
技能実習期間を修了していない技能実習生に対して、実習生本人及び監理団体等に次の確認を行う。
(1)自己の責めに帰すべき事情によらずに技能実習生の継続が困難になった理由
(2)監理団体等による実習先変更に係る必要な措置の実施状況
自己の責めに帰すべき事情によって技能実習を途中で終了し、残余の在留期間がある技能実習生に対しては、緊急避難措置に係る「特定活動」への在留資格の変更を認めない。
職種別の状況
令和5年の職種別の失踪者数を示します。「建設関係」の失踪者が最も多く、在留者(就業者)数に対する割合も他の職種に対して高くなっています。原因として、「労働環境が過酷(作業環境・作業内容)」「零細企業が多く給料が低い」などが挙げられます。
建設関係の対策内容
・月給制の導入による安定的な賃金の支払い
・建設キャリアアップシステムの登録義務化
・建設業許可を要件化:受入人数枠の設定
・入管との間で失踪技能実習生に係る情報の共有・連携
農業関係の対策内容
・外国人材を含む働きやすい労働環境整備
・技能実習事業協議会を通じた現状・課題の共有
・相談窓口の設置や優良事例の収集・周知
失踪技能実習生のその後の所在把握状況
失踪した技能実習生のその後の状況を示します。
令和元年から令和5年の間の合計の失踪者数「40,607人」に対して、約75%は所在が明確になっています。
直近の令和5年の国別の「3ヶ月以内の所在把握状況」を示します。ミャンマーは前述の「緊急避難措置に係る特定活動への変更」により、「99.7%」の所在が確認されています。他の国は、3ヶ月以内では、20%以下がほとんどで、早い段階での所在確認の難しさがわかります。
ただし、時間が経てば所在確認率が上がりますので、長く「不法滞在」の状況で日本に滞在することは難しくなります。
入管や各業界団体が、技能実習生の失踪対策を実施していますが、失踪者は増えています。ただし、直近の令和5年は「ミャンマーの特殊事情」があるため、今後は減少することが予測されます。
失踪の原因として、
(1)実習生を受入れる会社の状況(作業環境・作業内容・給料・福利厚生など)
(2)監理団体等による、実習生や会社への指導
(3)失踪を助長する悪質なブローカーの存在
(4)技能実習生の経済面(日本に来るための借金など)
などがあります。
技能実習生の失踪者への処罰(国外追放など)だけでなく、失踪原因によっては、会社や監理団体が処罰される可能性がありますので、各関係者は、現状を見直して対策を実施することが必要です。