「永住取り消し規定」の運用案 - 北九州アシスト法務事務所

「永住取り消し規定」の運用案

2024年6月14日に「入管法等」が改正・6月21日に公布され、その中で、「永住許可制度の適正化」について定められています。

永住許可制度の適正化についてはこちら

出入国在留管理庁が、2025年9月29日に、「永住取り消し規定」の運用案を公表しましたので、その概要を紹介します。なお、現時点ではあくまで「運用案(案)」であり、最終的な制度設計やガイドライン等は今後の確定を待つ必要があります。

背景・制度改正の趣旨

まず前提として、永住許可を取得した外国人には、既存の永住制度の枠組みで「在留資格として更新不要・就労制限なし」という安定性が保障されてきたというのが従来の解釈です。ところが近年、「永住許可取得後に、税金や社会保険料の滞納等、公的義務を果たさない例がある」との指摘があり、これを是正する狙いで、法改正によって永住許可を取り消し得る制度が導入されることになりました。

具体的には、故意に税金や社会保険料を支払わない者を対象に、永住許可取消の根拠を設ける旨の条項(改正入管法)が組み込まれています。 ただし、いかなる滞納でも自動的に取消となるのではなく、「悪質なケース」に限定して運用すべきという声が強く、今回公表された運用案は、その線引きを示すものと言えます。

なお、この永住取消し規定の法的施行は 2027年4月 を目指しています。また、改正法には経過措置・特例規定が設けられておらず、理論的には 施行前の滞納も取消対象となり得る とされています。

公表された運用案のポイント

今回の発表の運用案で特に注目すべき点を示します。

1. 「故意に支払わない場合」の判断基準

永住取消しを行うには、単なる未払いがあるだけでなく、**「故意性」**が認められることが必要とされます。運用案では、次の二要件を満たすことを基準としています。

(1) やむを得ない事情がないのに支払わなかったこと

 例として、重篤な病気、災害、失業などの事情により支払能力を一時的に喪失していたケースは、取消対象外とすべきとの考え方が示されています。

(2) 支払い義務を認識したうえで支払わなかったこと

 すなわち、通知が届いていなかったなど、未通知・認識不能の事情があれば、故意性を否定できる可能性があるとの扱いが示されています。

このように、故意性の判断は慎重にすべきという考えが前提です。

2. 取消対象を「悪質なケース」に限定

単に(1)(2)を満たしたというだけでは即時取消とはならず、さらに以下のような要素を併せて判断するという運用案になっています。

・滞納の回数・金額が相当多い

・今後も支払う意思がないことが明らかである

・入管庁の聴取・事情聴取の過程で支払いに応じる可能性があるなど、必ずしも悪質とは認められない事情があれば取消しを見送る

つまり、「悪質性」が高いと認定されるものに限定して、取消を適用すべきとのスタンスです。

3. 救済的対応・資格変更措置

永住取消しに至らない、あるいは取消を回避すべきと判断される事案に対しては、以下のような柔軟措置を適用する可能性が運用案に含まれています。

・永住取消しではなく、別の在留資格(例:定住者) に変更

・永住取消し対象であっても、人道上配慮が必要な場合(重篤な病気治療中など)には取消を回避し、資格変更で対応

・入管庁が事情聴取を行う過程で支払いに応じた場合など、「悪質とは認められない」と判断されるケースへの救済

このような措置は、運用の柔軟性を残すための救済ルートと言えます。

4. 施行前の滞納の扱い

改正法には経過規定を設けていないため、理論的には運用開始後、施行前の滞納も取消対象になり得ます。ただし、運用案では、施行前に支払われた場合や、悪質性が低いと判断される場合には取消の対象としないという取扱いを想定しています。

5. 今後のスケジュール・ガイドライン策定

運用案はあくまで素案段階であり、今後、当事者団体や関係機関の意見聴取を経て、来夏(2026年夏頃)にガイドライン案をまとめ、秋に最終決定する予定とされています。

また、税・社会保険滞納以外の取消事由(たとえば、重大犯罪、有罪判決、不法行為、在留カード更新義務違反等)についても、ガイドラインの中で運用ルールを示す方針です。

想定される論点・懸念点

この運用案が議論の的になる点を示します。

1.予測可能性・法的安定性

 永住許可取得後にも、行政の判断で在留資格を取り消される可能性が出てくるという制度設計は、外国人住民の安心感を損なうとの指摘があります。

2.故意性・取消基準の曖昧性

 「故意性」「悪質性」の判断はケースバイケースになるため、運用当局の裁量が大きくなる可能性があります。通知不達や事情説明の余地が認められるかどうかなど、線引きが難しいとの指摘が予想されます。

3.子・家族への波及影響

 永住許可取消は本人だけでなく、扶養家族や子どもの在留資格等にも影響を及ぼす可能性があります。たとえば、親の永住資格取消によって子の資格変更を余儀なくされるケースも想定され、教育・生活基盤に大きな影響を及ぼす懸念があります。

4.制度運用の重さと人的コスト

 事情聴取、支払い状況の調査、判断プロセス、救済措置対応といった実務負荷が大きくなることも懸念材料です。

5.国籍・出身地域の偏りや差別的運用リスク

 外国人住民を対象とした取消制度導入には、実務・運用面で不公平・恣意性が入り込むリスクも指摘されています。

永住者への提言(注意すべきこと)

1. 税金・社会保険料を必ず期限内に納付する

・永住取消しの主な対象は「故意の滞納」です。

・所得税、住民税、国民健康保険料、年金保険料など、未納や滞納は避けることが最重要です。

・仮に支払期限に間に合わない場合でも、市区町村の税務課や年金事務所に相談し、分割納付や猶予制度を利用することで「悪質な滞納」と見なされるリスクを軽減できます。

2. 「故意」と誤解されないよう記録を残す

・入管庁が重視するのは「やむを得ない事情がないのに支払わなかった」点です。

・病気や失業などで支払えなかった場合は、その診断書や離職票、役所との相談記録を残しておくことが有効です。

・支払いに関して疑義が出た場合、これらを提示できれば「故意ではない」と説明できます。

3. 行政からの通知を必ず確認する

・「通知が届いていなかった」は、原則として通用しにくい場合があります。

・住所変更をした際には必ず住民票を移すこと、また郵便物を確実に受け取れるようにすることが必要です。

・届いた納付書や督促状を無視せず、速やかに対応しましょう。

4. 滞納がある場合は早急に解消する

・今回の制度は2027年4月に施行予定ですが、経過規定がないため「施行前の滞納」も対象となり得ます。

・そのため、過去の未払いがある方は、今のうちに必ず支払いを済ませておくことが推奨されます。

・滞納整理に動いている姿勢を見せることは、取消対象とされない大きなポイントになります。

5. 永住権に依存せず、リスク分散を意識する

・万が一、永住許可が取り消された場合でも、「定住者」など他の在留資格へ変更できるケースがあります。

・長期的に日本に生活基盤を置きたい場合は、在留資格や国籍の選択肢(例:帰化申請)について専門家に相談しておくと安心です。

6. 家族への影響も意識する

・永住許可は本人だけでなく、配偶者や子どもの在留資格にも影響します。

・世帯全体で税・保険料を滞納しないように管理し、家族にも制度の変更点を共有しておくことが必要です。

7. 専門家に早めに相談する

・滞納や資格に不安がある場合は、行政書士や弁護士、税理士などの専門家に早めに相談しましょう。

・「まだ問題になっていない段階」での相談が、最終的な取消しリスクを避ける上で効果的です。

まとめ

今回の運用案は、形式的な未納ではなく、「悪質な滞納」を繰り返す永住者を対象とすることを明確にしています。

したがって、永住者の方々にとって最も重要なのは、

1 税金・保険料を必ず納める

2 支払えないときは正当な理由を明確に残す

3 行政からの通知を必ず確認する

この3点です。

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